脳梗塞の種類

脳梗塞は通常、次の3つのタイプに分類されます。

  • 心原性脳梗塞
  • アテローム血栓性脳梗塞
  • ラクナ梗塞

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心原性脳梗塞

本症の特徴

心臓内で血液が固まって血栓(けっせん:血管内で生じた血のかたまり)になり、これが脳動脈へと流れて脳梗塞を起こします。近年、高齢化とともに弁膜疾患を持たない心房細動(しんぼうさいどう:心房の筋肉が不規則・高頻度に収縮するために、心房全体が小刻みに震えている状態)による脳梗塞が増加しています。
本症では、通常大きな血栓ができるため、大梗塞を起こす傾向があります。また、血栓が溶けると出血性梗塞といって梗塞巣内に出血が起こり、急速に悪化することがあります。本症では、死の転帰を取る場合や、重度の後遺障害を残す場合が少なくありません。

診断

脳血管MRI(図1):脳動脈の閉塞部位を診断
脳MRI(図2):脳梗塞の部位と広がりを診断

心原性脳梗塞

治療

超早期

血栓を溶かす治療が有効な場合もあります。しかし、出血性梗塞を招く危険もあるので、慎重な判断が必要です。

急性期

脳梗塞による脳の腫れ(脳浮腫)を軽減するための薬物治療を行います。

慢性期

脳梗塞の再発を防ぐため、通常ワーファリンという薬物を用いて血栓の形成を抑制します。

アテローム血栓性脳梗塞

本症の特徴

頚部の内頚動脈の内壁にアテロームという脂肪の塊ができ、これが増大する過程で次の問題が起こります。アテロームに血栓ができ、その一部がはがれて目に流れると一時的な失明(一過性黒内障)が起こります。また、この血栓が脳へ流れると言語障害や片麻痺などが起こります。これら症状が24時間以内に消失するものは、一過性脳虚血発作(TIA)と呼ばれ、脳梗塞の前徴と考えられています。比較的大きな血栓が脳に流れた場合や、アテローム部位で動脈が閉塞した場合には、様々な程度の脳梗塞が起こります。アテロームの原因は高血圧や糖尿病、高コレステロール血症、喫煙などですので、本邦でも増加が見込まれています。

診断

脳血管MRI(図1左)や脳血管撮影で、動脈の狭窄程度やアテロームの潰瘍の有無を検討し、これに基づいて治療法を決定します。

アテローム血栓性脳梗塞

図1左)右内頸動脈の矢印の部位にアテロームによる不規則な動脈狭窄を認める。
図2右)a:術前、右の内頸動脈に狭窄を認める。b:内膜剥離術後、狭窄は消失している。

治療

狭窄程度が軽度で、アテロームに大きな潰瘍がない場合にはアスピリンやパナルジンなどの血小板凝集を抑制する薬が使われます。 一方、狭窄程度が高度の場合や潰瘍が大きな場合には、アテロームを摘出する手術(内膜剥離術)が行われます。術前狭窄していた血管は、術後拡張されます(図2)。しかし、高血圧や糖尿病などの原因疾患の治療が不十分な場合には、再発が起こるので注意が必要です。

ラクナ梗塞

本症の特徴

ラクナは小空洞を意味し、脳内を走る直径0.2~0.3mm位の動脈(穿通動脈)が閉塞して、脳内にできた小梗塞をラクナ梗塞と呼びます。その大きさは直径15mm以下とされています。原因は、加齢のほか、高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙、脱水などです。ラクナ梗塞は発生する部位によっては無症状です。これは無症候性ラクナ梗塞と呼ばれ、患者は脳梗塞に罹患したことを自覚できません。 一方、片麻痺やしびれ、言語障害、複視など、様々の症状を引き起こすこともあるので、小さいからといって侮ることはできません。ラクナ梗塞が進行・多発すると認知機能の低下から、痴呆をきたしたり、飲み込む機能が低下し、むせやすくなったりします。

診断

MRIでラクナ梗塞の殆どが診断できます(下図)。拡散強調画像とT2強調画像を組み合わせると、古いラクナ梗塞の中から新しいものを区別できるので、診断に極めて有用です。

ラクナ梗塞

治療

高血圧のコントロールが最も重要です。もちろん、その他の生活習慣病もきちっと管理する必要があります。脱水は血液の粘度を高め、血液を固まりやすくすることによって、脳梗塞の引き金になります。したがって、水分不足に注意が必要です。薬物治療として、一般的にはアスピリンなどの抗血小板剤が用いられています。

脳梗塞の治療薬t-PAについて

脳梗塞とは脳の血流が途絶えることによる病気です。これまでの治療法は脳梗塞の再発を防いだり虚血を起こした周辺を保護することが主な目的でした。しかし、2005年10月より使用が認められた血栓溶解剤(t-PA)は、詰まった血管を再開通させる働きを持つ今までとは全く違う薬剤です。この薬剤は脳梗塞急性期に使用すると効果が高いことが認められていますが、逆に出血を生じる可能性があるため、使用は脳梗塞発症4.5時間以内に限られます。脳梗塞が軽症週ぎても重症すぎても投与の適応はありませんが、発症から受診までの時間が経ち過ぎているために投与できないことが最も多い原因です。
治療が功を奏すれば麻痺等の症状がすみやかに消失します。言葉が出にくい、手足に力が入りにくいなどの症状が現れた場合、脳梗塞を疑い、迷うことなく救急車を呼ぶなどしてt-PA治療ができる病院を受診してください。

脳梗塞の治療薬t-PA

このページは以下に掲載された記事より抜粋して再掲したものです。
平成15年4月30日発行ふれあい第10号脳神経外科講座より
平成15年7月30日発行ふれあい第11号脳神経外科講座より
平成15年10月30日発行ふれあい第12号脳神経外科講座より
平成19年8月20日発行ふれあい第27号より