腰部脊柱管狭窄症

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腰部脊柱管狭窄症の特徴と症状

腰部脊柱管狭窄症による典型的な症状は、台所に立って仕事をしていると、腰や臀部、大腿部に痛みやしびれが強くなってきて立っていられなくなる。台所に肘をついたり、腰を屈めたり、座ったりしないと仕事を続けられない。歩いていると同様の症状が現れ、歩けなくなる。腰を前にかがめたり、しゃがんだり、座ったりすると症状は軽くなり、また歩けるようになる(これを間欠性跛行と呼ぶ)。自転車なら問題なく運転できる。スーパーでは、カートにつかまり、腰を曲げていると歩きやすい。寝るときには、横になり、身体を丸めると寝やすいが、仰向けで下肢を伸ばしては寝れないなどです。腰部脊柱管狭窄症の症状に共通しているのは、腰を伸ばしている(伸展)と症状が発現・増強し、前に曲げている(前屈)と症状は軽減・消失することです。このように腰部脊柱管狭窄症の症状は、腰の伸展・前屈との関係が強いことが特徴です。

腰を伸展すると何故このような症状が発現するのでしょうか。それを理解するためには、腰部脊柱管の構造と動きによる脊柱管の生理的変化を知ることが必要です。腰部脊柱管は、前方(腹側)は椎体と椎間板、側方は椎弓根、後方(背側)は椎間関節、椎弓、棘突起などの骨・軟骨から成る管状構造です(図)。その管状構造内には支持組織として前面に後縦靭帯、後面には黄色靭帯があり、脊柱管のしなやかな動きと安定性を維持しています。全ての腰の神経(馬尾、神経根)はこの脊柱管内を通っていることから、何らかの原因で脊柱管が病的に狭くなると、腰神経に圧迫が起こり、先に述べたような症状が発現するようになります。

腰部脊柱管狭窄症の特徴と症状01

腰部脊柱管狭窄症の特徴と症状02

 

脊柱管を狭くする原因として、加齢による骨や椎間板、関節、靱帯の変形・肥大・肥厚などがあります。生まれつき脊柱管の狭い人は、これら加齢変化の影響を受けやすいため、30〜40歳代で発症することが少なくありません。通常、腰部脊柱管狭窄症は年齢に比例して発症頻度が増加しますが、これがお年寄りの病気と言われる所以です。

脊柱管が狭くなると、なぜ立つこと歩くことに障害が起こるのでしょうか。腰椎は(頚椎も同様です)、生理的な変化として、腰を伸展すると脊柱管は狭まり、前屈すると広がります。これは全ての人で起こる脊柱管の生理的変化です。腰の伸展によって脊柱管が狭くなっても、脊柱管の広い人では腰神経の圧迫が起こることはありません。しかし、既に脊柱管が病的に狭くなり、神経の圧迫が進んだ人では、腰椎の伸展によって、神経の圧迫が強まり、臀部や下肢に痛みやしびれなどの神経症状が発現します。これとは反対に、腰を前屈すると脊柱管は拡大し、神経の圧迫が緩むため、臀部・下肢の症状は軽減されます。これが腰部脊柱管狭窄症によって立位保持の障害や間欠性跛行が生じる理由です。

腰部脊柱管狭窄症の診断と手術治療

腰部脊柱管狭窄症の診断はレントゲン撮影とMRI、CTスキャンで行うので、痛みや検査合併症などはありません。腰部脊柱管狭窄症の診断に必須とされてきた脊髄造影検査は、今日では国内外で次第に行われなくなっており、当院では既に不要な検査になっています。診断上重要な点は、脊柱管狭窄がどこにあるのか、症状を起こしている狭窄はどれであるのかを正確に見極めることです。診断が正確でなければ、いくら良い技術をもってしても患者さんの症状を改善することはできません。また、手術で大事なことは脊柱管内で圧迫され、症状を出す元になっている神経の的確な除圧(圧迫を取ること)を行うことであり、これが手術成功の鍵になります。
腰部脊柱管狭窄症の手術前後
腰部脊柱管狭窄症の手術前後

神経を除圧する手術方法には色々ありますが、当院ではMD法を用いています。MD法は最新の手術技術であり、直径16㎝の細い筒を骨まで挿入して、手術顕微鏡を見ながら拡大された術野の中で神経の圧迫を取り除きます。手術時間は約1時間、出血量は10ml以下と少なく、手術の翌日から歩行を開始でき、2週間までには退院できるのが普通です。術後は痛みが少ないため、8割以上の患者さんが鎮痛剤を必要としません。腰部脊柱管狭窄症は加齢に伴い発症者は増え、症状は進行傾向を示します。保存治療が効果を失ったなら、生活の質は低下し続けるので、手術治療が必要になります。以前は手術治療の失敗を恐れて、手術治療を避ける傾向が強かったように思います。近年、手術顕微鏡や内視鏡の利用によって、手術治療の安全性は飛躍的に向上し、安心して手術を受けられる時代になりました。しかし、手術治療の効果はすべての脊柱管狭窄症の患者さんに等しく現れるわけではありません。長く脊柱管狭窄症を持ち続け、神経障害の進んだ患者さんや腰椎の側彎変形が進んでしまった患者さんでは手術効果は通常劣ります。従って、手遅れにならない段階での手術治療が必要です。歳だから手術は無理ではと諦めている患者さんやご家族が多く見られます。私は原則として、手術治療に年齢制限は設けておりません。80歳を超えた高齢者でも、脊柱管狭窄症を治すことで生活の質が改善され、長寿の喜びを取り戻すことができるなら、手術を行う価値は大きいと考えています。ただし、傷が小さく、手術時間が短くなったとはいえ、全身麻酔をかけますので、心臓や肺などの機能がしっかりしていなければ手術ができないことは言うまでもありません。

手術治療の効果の現れ方については、手術直後から神経の圧迫によって起こっていた症状は速やかに改善へ向かい、立っていることや歩くことがし易くなります。しかし、しびれや冷感、筋力の低下などは既に神経に加わってしまった障害に基づく症状ですので、通常、回復に時間を要します。症状が消失するのに半年かかることも少なくありません。中には、足にしびれが残ってしまうことさえあります。脊柱管狭窄症は年寄りの病だから治らない、付き合って生活していくより仕方がない。このような諦めを持たずに、痛みに悩まされない、行きたい所へ自分の足で行ける生活を回復しましょう。

このページは以下に掲載された記事より抜粋して再掲したものです。
平成23年2月10日発行ふれあい第41号脊椎最前線より
平成23年4月25日発行ふれあい第42号脊椎最前線より

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