急性硬膜外血腫

頭を打ったから心配で調べて欲しいと言われ来院される方がおられます。受傷直後にはなんともなくても時間がたってから症状が出てくるということがあるからです。
ただ、頭部外傷の場合注意が必要なのは6時間程度でそれ以降に急激に異常が現れることはまずありません。
このような典型的経過をとるのが急性硬膜外血腫とよばれる状態です。
普通、頭蓋骨は約1.5m程度の高さから落ちると骨折を生じます。 頭蓋骨の下には髄膜の一種の硬膜がありその表面の動脈が骨折に伴い損傷を受け出血を生じることがあります。 すると脳そのものには損傷が無いため一時的に脳振盪を起こすことはあっても意識障害はすぐには現れません。
しかし、時間とともに出血量が増えると血腫により脳が圧迫され意識が悪くなったり麻痺を生じたりします。 これが起きるのが6時間程度で、緊急に血腫をとる手術が必要になります。
人の背の高さ程度から落ちた衝撃を受けた場合、例えば転倒して後頭部を打撲したとか肩車をしていて子供を落とした等の場合には緊急に受診する必要がありますが、打撲して1日以上経過して異常が無ければ特に心配する必要はありません。ただ、数週間後には慢性硬膜下血腫とよばれる病気が発生することがまれにあります。

急性硬膜外血腫

凸レンズ状の白く見える部分が血腫。
脳が圧迫され形がゆがんでいます。

急性硬膜下血腫

急性硬膜外血腫の説明が書いてありますが、硬膜外があるなら硬膜内があるんじゃないかと言われそうですが、どういうわけか硬膜下血腫という名前です。硬膜の血管は表面にはありますが内面にはありません。そのため頭蓋骨々折では硬膜外に血腫ができても硬膜の下に血腫はできません。硬膜の下に出血するのは、多くの場合、脳挫傷によって脳の表面の血管特に動脈が傷ついたり、脳と硬膜をつなぐ静脈が切れることによります。
硬膜外血腫では意識がはっきりしている時期があると説明しましたが、硬膜下血腫では脳挫傷を伴っている事が多いため、一般的に受傷直後から意識状態が障害されています。さらに血腫量の増大により状態が悪くなります。治療としては血腫による脳の圧迫をとるため手術を行なうことが原則です。ただ、血腫を除去しても脳挫傷のため脳の浮腫(むくみ)が現れる事が多く、手術によりはずした頭蓋骨を元に戻さずにおく事もしばしばあります。これは、頭蓋骨は大きさの決まった入れ物であるため脳浮腫がおきると脳の行き場がなくなり正常な部分もつぶれてしまう為です。手術後に人工冬眠療法や低体温療法により脳の活動をおさえ脳浮腫を抑えることも行われますが、硬膜下血腫の場合なんらかの後遺症を残してしまう事が少なくありません。

急性硬膜下血腫

左側の白く見える部分が血腫。
脳が圧迫され形がゆがんでいます。

慢性硬膜下血腫

硬膜の下に急速に出血が起きると脳が強く圧迫され生命にかかわることも少なくありませんが、ゆっくりと血がにじむように出血してくることがあります。
脳振盪を伴わない程度に軽く頭を打撲してから、あるいはそのような経験がなくても、だんだん頭痛が強くなる(特に午前中)手で細かい作業が出来ない、歩きにくいなどの症状が出てきたり、会話がとんちんかん、記憶力が急速に悪くなるなどの現象が出てきた場合にはCT、あるいはMRIで検査をする必要があります。硬膜と呼ばれる脳を包んでいる膜と脳の間にゆっくりと血液がたまってくる慢性硬膜下血腫である可能性があるからです。
治療としてはステロイドホルモンにより内科的に治療することも可能な場合がありますが、時間がかかり急速に悪化することもありえるため、通常は発見されたらすぐに手術を行ないます。手術といっても局所麻酔で直径1㎝弱の小さな孔を頭蓋骨にあけ、そこから血腫内に細いチューブを挿入します。一晩かけてゆっくりと血液を流しだすとそれで治ってしまうことがほとんどです。なかには再貯留してきて手術を2回以上しなければならないこともありますが、ほぼ100%治癒します。
進行は比較的ゆっくりしていますが、時に急速に症状が悪化することもありますのでおかしいと思ったらすぐに検査を受けなければなりません。急速に痴呆症状が進んだ場合もこの疾患である可能性があります。

慢性硬膜下血腫

左側の白い部分が出血です。

このページは以下に掲載された記事より抜粋して再掲したものです。
平成16年10月31日発行ふれあい第16号脳神経外科講座より
平成17年2月1日発行ふれあい第17号脳神経外科講座より
平成17年6月20日発行ふれあい第18号脳神経外科講座より