認知症①

以前「痴呆症」と呼ばれていましたが、病名に抵抗を感ずる方が多いため「認知症」という呼称が使われるようになりました。しかし、この病名は病態を正確にあらわしているとは言い難く、認知障害を生ずる状態に使われます。
認知症は記憶障害、知能障害を生じ、正常な社会生活が営めなくなった状態です。
認知症の原因としては多くのものが知られていますが代表的なのはアルツハイマー型痴呆や脳血管型痴呆です。脳血管型痴呆は脳梗塞や脳出血の後に生じるものでいわゆる生活習慣病を予防する事により発生を防ぐ事ができる可能性があります。
これに対しアルツハイマー型は原因が不明であり症状そのものを改善させる事は困難です。しかし、軽症状のうちに発見できれば進行を遅くする薬剤は開発されていますのでこれを使用すれば有意義な社会生活を長く送る事が出来る可能性が高くなります。
初期症状としては時間の感覚が無くなる、食事したかどうかがわからなくなるなどで、人の名前が出てこないとか物をどこに置いたか分からなくなるなどは病的なものとは言えません。アルツハイマー型痴呆が疑われた場合、SPECTによる脳血流測定を、当院で行っている3D-SSPと呼ばれる特殊な処理により、脳表の血流分布を検討する事により早期診断する事が可能です。

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3D -SSPによる脳血流画像

認知症②

「認知症①」で説明いたしましたが、アルツハイマー型の場合ある程度進行を遅らせることは可能でも症状を改善させることは困難で、脳血管型の場合は生活習慣病に対し注意することで発生を予防することは可能でもいったん発症すると治療は不可能です。しかし、認知症と同様な症状でも治療が可能な疾患もあります。甲状腺ホルモンが不足している場合や、うつ病は不可逆的な認知症と鑑別するべき状態ですが、外科的な手術によって症状が改善するものもあります。それは正常圧水頭症(図1)と以前解説した慢性硬膜下血腫です。慢性硬膜下血腫の場合は脳の表面に貯留した血液を抜き出すことにより症状が改善します。脳の内外には脳脊髄液(以下髄液)が循環しています。この髄液の循環が何らかの原因で滞ると頭蓋内に貯留してしまい脳を圧迫します。これには先天的なものや髄膜炎、くも膜下出血の後に生じることが多いのですが、時に高齢になって原因もないまま発生することがあります。髄液の圧が高くないにもかかわらず髄液が貯留し認知障害、失禁、歩行障害が現れます。これは、髄液の流れを改善する手術(図2)を施すことにより症状が改善します。
認知症が進行した場合、中には症状を改善させうる疾患である場合もありますので検査は必ず行うべきと思われます。

認知症_正常圧水頭症 認知症_手術

認知症③

記憶力が年齢を重ねるごとに衰えてくることは多くの方が実感していると思います。しかし、その記憶障害と認知症(痴呆症)とどこに境があるのかはっきりさせるのはかなり分かりにくい問題です。知っている人でもすぐに名前が出てこなかったり、物をどこに置いたか忘れてしまうということで外来に来られる方も多くおられますが病的である場合はあまりありません。客観的に認知症があるかどうか検査する方法に長谷川式簡易知的機能検査(HDS-R)があります。日付や場所等がわかるかどうか、簡単な計算ができるかどうか、簡単な記憶ができるかなどを調べ点数化します。この検査は外来で10分程度で終わります。この検査で認知症が認められた場合、MRIを用いて脳血管障害や脳腫瘍、あるいは慢性硬膜下血腫、水頭症等の器質的疾患がないかどうか調べ治療方針を検討します。長谷川式簡易知的機能検査(HDS-R)で正常範囲でも、最近では脳血流を調べるSPECT装置を用いた検査で特殊処理をすることにより早期のアルツハイマー病を診断することが可能になり、軽度のうちに治療を開始することが可能となってきました。

認知症_SPECT
SPECTに特殊処理(3D-iSSP)を施した検査結果

このページは以下に掲載された記事より抜粋して再掲したものです。
平成17年8月25日発行ふれあい第19号脳神経外科講座より
平成17年11月15日発行ふれあい第20号脳神経外科講座より
平成18年1月31日発行ふれあい第21号脳神経外科講座より